大学の卒業論文テーマ「hasunohaにおける 宗教性と親密性・公開性」

宗教型コミュニケーションプラットフォームの分析

神戸市外国語大学の学生さんから、hasunohaをテーマに卒論を書きたいと相談されたのが2018年。その後卒業する2020年にその卒業論文が完成したとのことで連絡をもらいました。題名は「僧侶による身の上相談サイトhasunohaにおける宗教性と親密性・公開性」。

実は、卒論のテーマでhasunohaを取り扱ってもらったのは今回で2回目。数年前にもある国立大学の学生さんに卒論を書いてもらっています。そのときも、hasunohaのコミュニケーションプラットフォームとしてのあり方に関心を持ってもらい協力しました。

学生さんの研究テーマに選ばれるのは嬉しいことです。今回は、少し内容を紹介してもよいとのことなので、どんなことを研究されたのか書きたいと思います。

研究目的「集合体での宗教性」「親密と公開の矛盾」

今回のテーマも、コミュニケーションプラットフォームとしてのhasunohaにおける、
①宗教性の有無
②「身の上相談」と「全文公開」という相反する概念がどのように成立しているのか
について、運営者である私や回答僧侶のインタビュー、サイトのデータを統計分析ソフトで分析した上での考察になっています。

僧侶個人で発信する媒体でなく、個々の寺や僧侶が集まった一つの集合体としてのhasunohaという場で、より宗教性は強まるのか否かについての疑問を明らかにしています。また、「個人的な身の上相談」という親密性と、「全ての人がそれらを閲覧できるというインターネットの性質」の公開性がどのように相容れているのかを解明し、サイト運営者の意図通りに利用がされているのかを考察する論文となっています。

宗教性

hasunohaが僧侶の集合体としての場として、僧侶ではない一般の人とのやり取りを行うとき、その場はどれほどの宗教性を帯びたものになるのかという点について、卒論作者さんは、サイト開設の背景や経緯、相談と回答の定量分析、回答のカテゴリ分類を試みたうえで考察を行ってくれました。
そのうちの一つの手法として、回答者が全員僧侶というコミュニケーションにおいて、相談者が相談の中でどれほどの宗教(仏教)語彙を使っているのかを尺度として見ています。

63,367の名詞と形容詞の形態素のうち、仏教的な語彙は466あり、これは全体の0.7%にあたる。つまり、相談において、宗教性が全くないというわけはないが、僧侶のみが回答者であるというhasunohaの特徴を考えてみると、仏教的用語の数自体はかなり少ない回数でしか用いられていない。

次に、回答をいくつかの類型に分類し5つの型をあてはめました。膨大な回答を整理する中で、寄り添った回答をする場合、一喝する回答、仏教の教えに合わせる場合などに分類してくれました。

①寄り添い型:自分の体験や経験を引き合いに出す。同じような境遇であると述べる。直接自分に連絡するように促す。
②諭し型:別の見方を提示する。こうしたほうがよいと明確に述べる。自分が、とは言わないが、相談してくださいと言う。理知的に思われる。
③喝型:一見投げやりで突飛に思われるような回答。あるいは説教。
④仏教型:仏教の教えに引き寄せて答えているもの。
⑤混合型:①から④が混ざっている回答。

例えば、以下のQ&Aでは下記のような分類になったそうです。

相談件名 相談の要約 回答者 性質 回答の要約
人が信じられない。自分で自分を追い込んでしまう。 過去の祖母の言動で嫌な思いをしていたことから、いまだに怖いと思っている。事情があってのことだとは理解しているが、信じられず、祖母だけにではなく他人に対しては誰に対しても不信感がある。どうすればよいか。 川口英俊 仏教型 お釈迦様の話で、罵詈雑言も贈り物と同じで受け取らなければ贈り主のものであるという考え方がある。あなたが暴言を受け取らなければ、それは言った人のものだ。
丹下覚元 寄り添い型 防衛反応とフラッシュバックですね。ご安心ください。(*’▽’)私も似たような経験があります。
増田俊康 諭し型 変化を望んだこと、ここに書き込んだことは前進です。自信をもたれてください。

作者さんよると、 仏教型の回答が格段に多いわけではなく、

hasunohaにおける回答の実践においては、全体を通して宗教性があるとは言い難い。しかし、時に相談者に呼応する形で、あるいは回答者が敢えて宗教性を見せる形で宗教性が現れることがある。

とあるように、相談内容や相談者の状態によって回答の仕方を変えているのがわかります。

回答者によって、寄り添い型の回答が多いお坊さん、喝が多いお坊さんなどは傾向があるのですが、Q&Aを見ていると「今すぐ死にたい」など切羽詰まった相談には喝型のお坊さんの回答は少ないなど、自然なフィルタができているようにも感じます。

hasunohaという場の宗教性について、作者さんは以下のように締めくくっています。

hasunohaは、開設の意図、僧侶のみが相談に回答できるという形式、そしてその機能において宗教性の備わった相談媒体である。

しかし、相談者の実践においては、宗教性は全く見られないわけではないが、宗教性が強く表れているとは言えなかった。

一方で、回答者の方は宗教的な実践を仏教的回答という形式で行うことがあるが、それは相談者のニーズに合わせて宗教性を前面に押し出したり、それ以外の場合には全く宗教性を感じさせない回答をしたりというように使い分けることがある。つまり、回答僧の実践は、hasunohaという潜在的・形式的・機能的に宗教性を帯びた場の中で、開設者や運営の意図、そしてなにより相談者の意図に時に呼応し、時に背きながら行われている。

親密と公開性

身の上相談における親密と公開性について、作者さんは身の上相談の歴史から類似性を考察されています。ラジオ、新聞、雑誌、ネットと時代とともに身の上相談の場も多岐にわたるようになりました。

hasunohaと各媒体の比較

媒体 相談者の完全匿名性 回答者の完全匿名性 回答者の専門性 回答の複数性 相談と回答の双方向性
テレフォン人生相談 × 教育研究家や弁護士、精神科医、作家など × ○(電話)
毎日新聞人生相談 × 小説家、落語家、漫画家、コラムニスト、作詞家など × ×
女性自身 × 特定の芸能人 × ×
クロワッサンオンライン × 特定の芸能人や営業コンサルタント × ×
withonline × 特定の社会学者 × ×
Yahoo!知恵袋 ○(ユーザーIDも非公開にすることが可能) △(回答者のユーザーIDは非公開にできない) 一般人 ○(追伸機能、お礼機能)
OK!Wave △(ユーザーIDを公開) △(ユーザーIDを公表) 一般人 △(それぞれの回答にお礼コメント機能)
メールマガジン △(配信者による) 配信者 △(配信者の数や配信のスタイルによる) ×
hasunoha △(ユーザー名は公開) △(回答者による) 僧侶 △(追伸機能、お礼コメント機能)

hasunohaは相談者と回答者の完全匿名性と回答の複数性、相談者と回答者の相互コミュニケーションという観点ではYahoo!知恵袋やOK!Waveなどの相談サイトに近く、回答者の専門性という観点では、ラジオや新聞、雑誌に近い。したがって、hasunohaは現在展開されている相談媒体の複合形式をとっているということができるだろう。

また、hasunohaのコミュニケーションの形態は、不特定多数の回答者に対して投げかけ、特定の回答者から応答がある点で、機関誌『草の実』と類似する点が多い。と作者さんは述べています。

機関紙『草の実』とは、「『朝日新聞』の投稿欄『ひととき』投稿者を中心に、『お互いに手をつないで、生活を語り、身近な問題をとりあげて行動する女性』を目指して活動した 」交流団体「草の実会」の機関紙である(honto)。

機関紙『草の実』では、読者投稿とそれに対する個人的な応答が掲載され、やり取りが公開されていた。

そこでは、投稿者は会員に対して綴り、応答者は特定の投稿者へと綴るという宛先の非対称性が存在していた。

つまり、『草の実』では、個人的なやり取りをするという親密性とそのやり取りを不特定の他者にみせるという公開性が同時に成立するように演出されていたのである(清原2014:95-96)。

hasunohaについても同様に考えてみると、一般に、相談者は不特定の回答僧に向けて綴り、回答僧は特定の投稿者に対して返答する。

その相談内容は私的であり、回答も個人的だが、それらのやり取りは不特定多数に向けてインターネットを介して公開されている。ここに、親密性と公開性の混在が見られる。

相談者同士の連携への発展

さらに、hasunohoに見える、相談者同士の連携についても考察してくれました。

量的分析を含めて2000件以上の相談を分析してきたことで、多くのユーザーが数回の相談を行うにとどまる一方で、短期的あるいは中長期的に同じユーザーが何度も相談を繰り返すことがあると気がついた。

その中には、回答者への相談ではなく、個人的な日記、詩、遺書のようなものも投稿に含まれる。たとえば、

花枯れた。
花枯れて怒られた。
植物もまともに育てられないんだから後輩育てられるわけないよね。
こどもなんて無理だよね。
ぽんこつだなって思う、つくづく嫌になる。

これについて作者さんはこう分析しています。

相談するわけでも、質問するわけでもなく、今思っていることを思うままに書くという実践がhasunoha内では行われている。つまり、hasunohaは、相談の場として機能しながら、時に個人的な日記帳やTwitterなどに代表されるSNSの役割も果たしているのである。

それだけではない。特徴的なのが、他ユーザーとのやりとりである。hasunohaにはユーザー間で連絡を取り合えるようなシステムや個人メッセージ機能などが存在しない。そのため、ユーザーたちは相談を投稿するという形で、他のユーザーと交流を図っている。個人的な交流を相談投稿という形で行っているユーザーもいた。

その中で、

「あなたの投稿いつも読んでます。励まされてます。ありがとう。あなたも私の投稿は必ず読んでるはず。生きてください。どうか生き抜いてください。」と自殺を止める投稿(質問)をしている 。

このように、hasunohaにはユーザー間でコミュニケーションをとる手段がないにも関わらず、ユーザー同士で励まし合うという連帯が成立しつつある。

ユーザー間の交流という全く予想されない形の交流がhasunoha内で起こっている。機能的に相互に交流することのできない者同士が交流を図り、相談者対回答僧というhasunohaの基本的な構造を、相談者対相談者(あるいは利用者と閲覧者も含める)という新たな構造を取り込む形へ作り替えている。そこには、親密性と公開性の混在と、さらなる複雑化が現れている。

結論

膨大な量の調査を通じて、相談者さんが可視化してくれたhasunohaの分析はとてもありがたいものになりました。

hasunohaは、僧侶と悩みのある人を繋げるための場であることは間違いない。しかし、開設の意図や僧侶という所属などにおいて宗教性が見られる一方で、特にhasunoha内で行われている回答僧の実践に着目すると、宗教性は相談者のニーズに左右されることが多い。

また、hasunohaが想定している相談者対回答僧という基本的な構造を、相談者らが相談者対相談者(あるいは利用者・閲覧者)という構造に作り替えるという動きもみられた。

本稿では、hasunohaを場として捉えてその形式とその中で行われている実践について調査した。これによって、従来の身の上相談研究とは異なり、その他の媒体の研究では明らかにならなかった新たな視点を提供することに成功したと思われる。

宗教性に関しては、hasunohaという媒体の性質上当然現れる視点だが、親密性と公開性という視点は、清原(2014)をはじめとするジェンダー研究の視点から発したものであり、身の上相談についての先行研究では見られなかったものである。

卒論や研究テーマお待ちしています

日々の運営で感じていることを数値で可視化することは重要です。それはサービスの改善と外部への説得力ある情報に昇華できるからです。

作者さんが最後に書いていましたが、

本研究は、事例研究の域を出ることができていないように思われる。量的調査のために収集したデータの量の不足や質的調査において至らなかった点を考えると、本論文の結論がhasunoha内でどれほど一般的な事象なのか、さらには身の上相談の中でどれほど普遍的なのかという点には疑問の余地がある。

hasunohaのようなインターネット媒体の身の上相談研究においては、相談数の膨大さ故に初期段階で調査対象を絞り込むということをせず、一度全体を俯瞰した上で質的調査や量的調査を進める手法を採用した研究の積み重ねが当面の課題である。

hasunohaには膨大な量のデータがあります。それはもはや手動で分析できるものを超えています。様々な解析技術を駆使しながら、この中にある「人間が幸せにいきるための処方箋」をマイニングしていきたいと考えています。

ストレスマネジメントに仏教がどれほどの効果をもたらすのか、精神疾患の改善と仏教がどのように相関しているのか、感情筆記がトラウマをどのように改善させていっているのか。

hasunohaの情報を追えば見えてくるものが多くあると考えています。

研究されたい方からの連絡をお待ちしています。

mail to info@hasunoha.jp

引用部分の卒論に出てきた参考文献

清原悠2014「〈私的な公共圏〉における政治性のパラドックス――女性団体・草の実会における書く実践を事例に――」『ジェンダー研究』16、東海ジェンダー研究所、79-114頁。

honto「戦後日本住民運動資料集成 6第1巻 復刻『草の実』 2第1巻」 『honto』https://honto.jp/netstore/pd-book_03306606.html(2019年11月20日アクセス)


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