少し前になりますが、名古屋学院大学の学生さんが毎年ハスノハの研究をしてくれていて、そのときのインタビューを元にしたハスノハのこれまでの歩みを作ったので記事にしました。
「相談できる場所が欲しかった」:ゼロからの挑戦
東日本大震災を契機に考え付いた考え。助け合う人々。日本人の美徳に心を奪われる。そこでひらめいたのが日本人に脈々と受け継がれているはずの目に見えない仏教の教え。
「お坊さんに相談できる場所があったら、どれだけ救われる人がいるだろう?」
その問いから生まれたのが「hasunoha」だ。創設者の堀下氏は、仏教の知識もなく、お坊さんでもない状態でこのプロジェクトをスタートさせた。Yahoo!で企画職をしていた頃、インターネットの力で悩みを抱える人々を支える場を作りたいと考えたのだ。
最初は手探りだった。Twitterを駆使して200人のお坊さんにDMを送ったものの、返信をくれたのは20人、そのうち協力してくれたのはたった1人。
「でも、その1人が大きな希望でした。そこから少しずつ輪を広げていったんです。」
広がる悩みの声:コロナ禍がもたらした影響
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大は、社会全体に孤独と不安をもたらした。その影響はhasunohaにも顕著に現れた。とくに「死にたい」という切実な相談が急増し、カテゴリー別で1位になる月もあった。
「コロナ禍では、人と会えない孤独感や将来への不安が大きかったと思います。芸能人が自死したニュースが広がると、さらに相談が増えました。」
志村けんさんや三浦春馬さんといった著名人の死が報じられるたび、hasunohaの相談件数は跳ね上がった。とりわけ、「自分に自信がない」「生きる意味が分からない」といった内向的な悩みが増えたという。
「私たちが直接その人を救うことは難しいですが、『一人じゃないよ』という気持ちを届けるために、お坊さんたちが力を尽くしてくれました。」
インターネットで寄り添うことの難しさ
コロナ禍の相談増加に対応する中で、お坊さんたちは新たな挑戦を迫られた。hasunohaの相談内容は非常に重く、「死にたい」「もう限界」といった投稿も珍しくない。お坊さんたちは、どうすれば相談者に寄り添えるかを模索し続けた。
「直接会えない分、インターネット上では寄り添うのが本当に難しいんです。でも、お坊さんたちは相談者の心に触れるような文章を一生懸命書いてくれています。」
たとえば、「死にたい」という相談に対して、安易な解決策を提示することはしない。仏教的な視点を交えつつ、相談者が自分で考えられる余地を残す形で回答する。
芸能人の自死:相談が急増した背景
特に芸能人の自死が報じられた直後には、切迫した相談が数多く寄せられた。堀下氏は当時を振り返り、次のように語る。
「芸能人の自死は、自分を重ねる人が多いんです。『あの人のような成功者でも耐えられないなら、自分なんて…』と思ってしまうんですね。」
このようなケースに対応するため、hasunohaでは急を要する相談が来た際に、お坊さんたちが協力して迅速に回答を提供できる仕組みを作っている。たとえば、Facebookグループで相談内容を共有し、複数のお坊さんが交代で対応することもある。
寄り添う力が光る:野良犬のエピソード
hasunohaで印象的な相談の一つに、薬局で働く女性からの投稿がある。彼女は薬局近くで見かけた野良犬を保健所に引き取ってもらった後、「あの犬を殺してしまった」と後悔に苛まれていた。
「動けない犬を助けたい一心で保健所に連絡したのに、安楽死させてしまった…」
涙ながらに語る女性に対し、お坊さんが寄り添う言葉を贈った。その回答に感動した女性は、後日「私とワンちゃん、両方の気持ちが救われました」と感謝の手紙を送った。このエピソードは新聞に掲載され、多くの読者の心にも深く刻まれた。
コロナ禍が作り出した「新しい悩み」
コロナ禍では、従来の「人間関係」や「恋愛」の相談に加えて、孤独や不安といった社会的状況が引き起こす新しい悩みが増えた。
「特に印象的だったのは、『誰にも会えないことで、自分の存在価値が分からなくなった』という声です。」
hasunohaは、直接的に悩みを解決する場ではない。それでも、「心の寄り添い」が多くの相談者に安心感をもたらしている。
お坊さんたちの苦悩:回答の重みと負担
コロナ禍で相談が急増する一方で、お坊さんたちもその負担の大きさに悩まされている。
「相談内容があまりにも重すぎて、回答者自身が深く影響を受けることもあります。お坊さんも人間ですから。」
一部のお坊さんは、相談に深く入り込みすぎて休止を余儀なくされたり、自分の体験を過剰に語ってしまい負担を感じるケースもあった。
お坊さんのルール:「他宗教を否定しない」「自殺を誘発しない」
hasunohaでは、お坊さんたちが守るべきルールが明確に定められている。
- 他宗教や他宗派の否定をしない
- 他宗教や他宗派を否定するような発言は禁止。
- 自殺を誘発する回答をしない
- 切羽詰まった相談者に対する対応には特に注意を払う。
さらに、お坊さん同士で相談内容を共有し、互いにフォローし合う仕組みも導入している。
コロナ禍で果たした役割
hasunohaは、コロナ禍においてまさに「現代の駆け込み寺」としての役割を果たした。SNSで悩みを投稿することすらできない人たちが、密かに救いを求める場となっているのだ。
「命に関わるほど切迫した相談には、行政機関や専門機関を紹介することもあります。でも、最初の一歩を踏み出す場としてhasunohaがあることが重要なんです。」
未来への展望:悩みとともに歩むhasunoha
hasunohaは、インターネット時代の「駆け込み寺」として、多くの人々に寄り添ってきた。堀下氏は今後も、この活動を広げていきたいと考えている。
「お坊さんたちの力で、ネットの世界にも心のつながりを作りたい。それが実現できていることが本当に嬉しいです。」
悩みを抱える人々の声に応えるhasunohaの活動は、これからも続いていく。
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